大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和41年(ラ)8号 決定 1966年4月26日

抗告人 亀井宅平

訴訟代理人 徳田恒光

相手方 亀井ハル

訴訟代理人 田内竹喜

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、事件本人亀井弥太郎(以下単に事件本人という)の精神状態が、同人を禁治産者としなければならないようなものであるかは疑問である上、相手方(本件申立人)亀井ハルは、後見人に選任された亀井礼三郎と共謀して、事件本人の財産を奪取する手段として本件禁治産宣告申立に及んだものであり、そのような申立に基づきなされた禁治産宣告は違法である。仮りに禁治産宣告が止むを得ないとしても、後見人に選任された亀井礼三郎は、事件本人の養子であるとはいえ、これまで事実上事件本人を遺棄し、その財産を奪い取る等の不正行為を重ねているもので、右礼三郎を後見人とすることは、事件本人に不幸を招き、且つ親族間に不和混乱を招くものである。

一方抗告人(事件本人の母の妹のむこ養子)は、過去二〇年間事件本人のため、事実上の後見人(法律上は代理人)として、誠実にその療養、監護、財産の保全等に努めて来たものであるから、抗告人を事件本人の後見人に選任するのが相当である。

よつて原審判の取消を求める、というのである。

しかし原審判の挙示する資料によると、事件本人が心神喪失の常況にあることを優に肯認することができ、原裁判所が事件本人を禁治産者とする旨の宣告をなしたことは相当である。また記録を精査しても本件禁治産宣告申立が抗告人主張のような不正の目的でなされたものとは認め難く、原審判を取消さなければならないような点は見あたらない。

次に、抗告人は、原裁判所が亀井礼三郎を後見人に選任したことに対し不服を申立てているので、その適否につき判断する。およそ家庭裁判所がなした審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができるものであるところ(家事審判法第一四条参照)、最高裁判所規則である家事審判規則によれば、禁治産を宣告する審判に対しては、民法第七条に掲げる者が即時抗告をすることができる旨規定しているけれども(家事審判規則第二七条第一項参照)、後見人選任の審判に対し即時抗告することができる旨の規定は存しない。従つて、家事審判規則第二五条により、家庭裁判所が禁治産を宣告すると同時に、後見人を選任する審判をした場合においても、右後見人選任部分につき、独立して不服申立をすることはできないものと解するのが相当である。ところで、本件抗告のように、禁治産宣告と後見人選任とが同時になされた審判に対して即時抗告が申し立てられた場合、抗告裁判所としては、もし禁治産宣告が不当であるときは、後見人選任の部分をも含めて原審判全部を取消すべきであるが、禁治産宣告が相当であるときは、原審判中後見人選任の部分については、その当否を審査することができないものといわなければならない。蓋し、そのように解しなければ、後見人選任の審判に対して独立して不服申立をすることを認めない決意を没却する結果となるであろう。そうだとすれば、原裁判所がなした禁治産宣告が相当であること前段説示のとおりであるから、原審判中後見人選任の部分に対する不服理由については、当抗告裁判所において、判断をすべき限りでない。

よつて本件抗告は理由がないから、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条第一項に従つて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させるのを相当と認めて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 加藤龍雄 裁判官 山本茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例